円安や物価高、人手不足が常態化するなかで、「従業員を雇い続けたいが負担が重い」「新しい事業に挑戦したいが、それに見合う人材がいない」「社員の能力を伸ばしたいが、研修だけでは足りない」と感じている事業主は少なくありません。
本記事で解説する産業雇用安定助成金は、こうした課題に対して、出向や新規雇用にかかる賃金の一部を国が支援する制度です。コースによって対象や金額が異なるため、自社に合うものを選ぶ必要があります。
本記事では、現在運用中の3コースと過去に廃止された1コースを整理し、対象事業主・助成額・申請方法を最新情報で詳しく解説します。
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この記事の目次
産業雇用安定助成金とは
産業雇用安定助成金は、景気の変動や産業構造の変化、災害などの理由で事業活動が一時的に縮小した事業主が、従業員の雇用維持や人材確保・育成に取り組む際、国がその費用の一部を助成する厚生労働省の雇用関係助成金です。
もともと新型コロナウイルスの影響下で在籍型出向による雇用維持を支援するために創設され、その後の社会情勢に合わせてコースが整理されてきました。
最大の特徴は、出向元と出向先の双方が助成対象となるコースが設けられている点です。仕事が減った会社から人手が足りない会社へ従業員を一時的に移すことで、雇用を守りながら異業種・先進企業の経験も積ませる「攻めの人材活用」を後押しする設計となっています。
現在運用されているのは次の3コースで、加えて過去に廃止された1コースがあります。
| コース名 | 目的 | 状況 |
|---|---|---|
| スキルアップ支援コース | 在籍型出向によるスキルアップと賃上げ | 運用中(令和4年12月創設) |
| 災害特例人材確保支援コース | 能登半島地震被災事業主の雇用維持 | 運用中(令和8年12月31日まで) |
| 産業連携人材確保等支援コース | 補助金活用事業の高度人材確保 | 運用中(令和8年度以降は未定) |
| 雇用維持支援コース | 新型コロナ影響下の雇用維持 | 令和5年10月31日廃止 |
「事業を続けたい」「人を育てたい」「新規事業に挑戦したい」というそれぞれの事業主の課題に対して、別々のコースで応える設計になっています。次の章から各コースの内容を見ていきましょう。
各コースの詳細
スキルアップ支援コース
労働者のスキルアップを在籍型出向により行い、復帰後に賃金を出向前と比較して5%以上上昇させた事業主に対し、出向中の賃金の一部を助成するコースです。出向元と出向先の双方が助成対象となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成対象 | 出向元・出向先の双方 |
| 助成率 | 中小企業2/3、大企業1/2 |
| 1人1日上限 | 8,870円(両事業主合計) |
| 1事業所年度上限 | 1,000万円 |
| 対象期間 | 出向開始日から最長1年 |
| 必須条件 | 出向復帰後6か月間の賃金を出向した本人について5%以上UP |
出向期間は1か月以上2年以内、出向終了後は出向元へ復帰することが必要です。親会社・子会社間の出向など独立性のない関係は対象外で、出向先の業務が港湾運送・建設・警備・医療関係に該当する場合も対象外となります。
このコースの最大の特徴は「出向した本人の賃金を5%以上UPさせる」要件です。賃金UPの対象は出向した本人のみで、社内の他の社員の賃金を上げる必要はありません。また、出向元事業主は職業能力開発推進者を選任していることも要件となります。
出向した労働者は、出向元事業主に雇用保険被保険者として6か月以上継続して雇用されている必要があります。
詳しくはこちら:産業雇用安定助成金【スキルアップ支援コース】とは|在籍型出向で従業員のスキルアップと賃金アップを支援
災害特例人材確保支援コース
令和6年能登半島地震の影響を受けた能登地方の事業主が、在籍型出向により従業員の雇用を維持する場合に、出向元・出向先の双方を助成するコースです。能登地方の事業主が能登地方以外の事業主に従業員を出向させて雇用を守る、という仕組みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成対象 | 出向元(能登9市町)・出向先(全国)の双方 |
| 助成率 | 中小企業4/5、大企業2/3 |
| 1人1日上限 | 8,870円(両事業主合計) |
| 支給限度期間 | 最長2年(730日) |
| 対象期間 | 令和6年12月17日〜令和8年12月31日 |
対象となる出向元の地域は能登地方9市町(七尾市・中能登町・羽咋市・志賀町・宝達志水町・輪島市・穴水町・珠洲市・能登町)に限定されます。出向先は全国どこでも可能です。
スキルアップコースとは異なり、出向中の賃金は維持されていれば足り、復帰後の賃金UPは求められません。被災事業主の雇用維持が目的のコースであり、3コースの中で最も助成率が高い(中小4/5)のが特徴です。
令和7年12月26日の改正で支給限度日数が1年から2年に延長されており、令和7年中に計画届を提出済みの事業主は令和8年2月28日までに変更届の提出が必要です。
詳しくはこちら:災害特例人材確保支援コースとは|能登地方の事業主向けに対象・助成額・申請方法を解説
産業連携人材確保等支援コース
事業再構築補助金またはものづくり補助金の交付決定を受けた事業主が、その事業に必要な高度人材を新規雇用する場合に、賃金の一部を助成するコースです。在籍型出向ではなく新規雇用が対象という点で、他の2コースとは性質が異なります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 中小企業1人250万円、大企業1人180万円 |
| 支給方法 | 6か月ごとに2期に分けて支給 |
| 支給上限 | 1事業主あたり5人まで |
| 対象期間 | 1年 |
| 必須条件 | 対象労働者に年350万円以上の賃金を支払う |
対象となる補助金は、事業再構築補助金(第12回・第13回公募の成長分野進出枠通常類型)またはものづくり補助金(第17次以降の製品・サービス高付加価値化枠)に限られます。事業再構築補助金は2025年3月26日で新規申請受付が完全終了しているため、現在新規にこのコースを利用できるのはものづくり補助金経由のみです。さらに令和8年度以降の取扱いは未定であり、厚労省も継続するか否かを明らかにしていません。
雇用する人材は専門知識・技術が必要な企画立案・指導業務、または係長相当職以上の管理業務に従事する者である必要があります。雇用形態は期間の定めのない労働契約(正社員)で、年350万円以上(時間外・休日手当・賞与を除いた基本給と諸手当)を支払うことが条件です。
雇用維持支援コース(令和5年10月31日廃止)
新型コロナウイルスの影響を受けた事業主が、在籍型出向により労働者の雇用を維持する場合の助成コースとして令和3年に創設されましたが、コロナ禍の収束に伴い令和5年10月31日に廃止されました。現在は新規申請を受け付けていません。コロナ禍で創設された経緯は、産業雇用安定助成金全体の出発点として記憶しておくと、現行コースの位置づけが理解しやすくなります。
雇用調整助成金との違い
産業雇用安定助成金と雇用調整助成金は、いずれも労働者の失業予防や雇用安定を目的とする厚生労働省の助成金ですが、対象となる取組が異なります。
| 項目 | 産業雇用安定助成金 | 雇用調整助成金 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 在籍型出向や新規雇用による人材活用 | 休業・教育訓練・出向による雇用維持 |
| 支援対象 | 出向元・出向先の双方(コースによる) | 出向元のみ(出向の場合) |
| 取組の方向性 | スキルアップ・人材確保が主 | 事業活動縮小時の現状維持が主 |
雇用調整助成金は事業縮小時に従業員を社内に留めて雇用を守る制度であるのに対し、産業雇用安定助成金は出向先で新たな経験を積ませたり、新規雇用で事業を強化したりする「攻めの人材活用」に近い設計となっています。
どちらを選ぶかは、自社の状況によります。事業活動が一時的に縮小しており、社内で休業させる形で雇用を維持したいなら雇用調整助成金が適しています。一方、従業員に異業種での経験を積ませたい、または新規事業に必要な人材を確保したいなら産業雇用安定助成金が選択肢になります。なお、同一の賃金支出について両助成金を併給することはできませんが、休業期間と出向期間を分けて時系列で活用することは可能です。
申請の流れ
申請はコースによって流れが異なりますが、共通する基本的なステップは次の通りです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1. 計画の策定 | 出向計画やスキルアップ計画、雇用計画を立てる。労使協議や本人同意の取得も行う |
| 2. 計画届の提出 | 都道府県労働局またはハローワークへ計画届を提出(出向開始日の前日まで、2週間前目安) |
| 3. 出向・雇用の実施 | 計画届に基づいて実施 |
| 4. 支給申請 | 各コースの定める期限内に申請 |
| 5. 審査・支給決定 | 労働局の審査を経て支給決定、指定口座へ振込 |
支給申請の期限は、スキルアップコースは賃金上昇確認期間(出向復帰後6か月)の最後の賃金支払日の翌日から2か月以内、災害特例コースは支給対象期末日の翌日から2か月以内、産業連携コースは6か月ごとに2回(雇入れから6か月経過後と12か月経過後)です。1日でも遅れると受け付けされないため注意が必要です。
産業連携コースのみ、最初に事業再構築補助金またはものづくり補助金の交付決定を受けるステップが追加されます。申請は窓口持参・郵送に加え、雇用関係助成金ポータルからのオンライン申請にも対応しています。
計画届の提出から支給金の振込までの期間は、コースや申請内容によって異なりますが、おおむね半年から1年程度を見込んでおくのが現実的です。書類不備があると審査に時間がかかるため、申請前に労働局や社会保険労務士に相談することで手続きをスムーズに進められます。必要書類は計画届時と支給申請時で異なり、コースによっても異なるため、最新の様式と詳細は厚生労働省の各コース公式ページでガイドブックを参照してください。
申請時の注意点
各コースに共通する基本的な注意点は次の通りです。
・過去に雇用関係助成金で不正受給による不支給決定や支給決定取消を受けた事業主は、3〜5年間は対象外となります
・申請年度の前年度より前の保険年度に労働保険料の滞納がある事業主は対象外となります
・同一の賃金支出について、他の雇用関係助成金との併給はできません
・親会社・子会社間など独立性が認められない事業主間の取引は対象外となります
加えて、各コース固有の重要な注意点として、スキルアップコースでは出向した本人の賃金を必ず5%以上UPさせること、災害特例コースでは令和8年2月28日までの変更届の提出を忘れないこと、産業連携コースでは補助金事業計画書の「実施体制」欄に人材確保事項の記載があることが必須となります。これらを満たさないと、要件を満たした出向や雇用を行っていても助成対象外となります。
よくある質問
個人事業主も対象になる?
雇用保険適用事業所であれば対象になります。ただし、個人事業主本人や同居親族は原則として対象労働者にはなりません。
事業所設置後1年未満の事業主は対象?
スキルアップコースは事業所設置後1年未満でも対象となりますが、出向させる労働者が出向開始日の前日時点で出向元事業主に雇用保険被保険者として6か月以上継続して雇用されている必要があります。
企業グループ内の出向も対象?
親会社と子会社間の出向や、代表取締役が同一人物である企業間の出向など、独立性が認められない場合は対象外です。資本金50%超の出資、取締役会過半数の兼務などが独立性のない判断基準となります。
スキルアップコースで賃金5%UPの対象は全社員なの?
出向した労働者本人のみが対象です。社内の他の社員の賃金を上げる必要はありません。本人の出向前賃金と出向復帰後6か月間の各月の賃金を比較し、いずれの月も5%以上上昇していることが要件となります。
有期雇用契約の労働者は対象?
スキルアップコース・産業連携コースともに、期間の定めのない労働契約を締結する労働者が対象で、有期雇用契約労働者は対象外です。
同じ出向先に複数の人材を出向させてもいい?
スキルアップコースでは対象になります。ただし1事業所あたり1年度1,000万円の支給上限があり、同一人物については1人1回までの支給に限られます。
事業再構築補助金の交付決定を受けた事業主は産業連携コースの対象になる?
第12回・第13回公募の成長分野進出枠(通常類型)の交付決定を受けた事業主のみが対象です。事業再構築補助金は2025年3月26日で新規受付を終了しているため、現在新規にこのコースを利用できるのはものづくり補助金経由のみとなります。
まとめ
人を雇い続けることも、新しい人材を迎え入れることも、簡単な決断ではありません。事業の先行きが見えにくい今、目の前の固定費に頭を悩ませながら、それでも「人」を切り離せないと考えている事業主は多いはずです。
産業雇用安定助成金は、そうした事業主が出向や新規雇用というかたちで雇用や人材育成に踏み出すとき、賃金負担の一部を国が引き受けることで、その判断を後押しする制度です。
コースによって対象や金額、求められる条件は異なるため、自社の状況に近いコースを選んで検討してみてください。
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