2024年、「働き方改革関連法」の業種による猶予期間が終わります。これに伴い4月からは、建設業・運搬業界においても労働時間の上限が適用されることになりました。
こうした動きを背景に、両業界では労働力の不足によって事業が進められなくなる「2024年問題」への対策が課題となっています。東京都では問題の解決に向け、補助金や助成制度を実施します。
今回は東京都が設置した、建設業・運搬業界で使える支援制度をまとめました。なお、まだ詳細が公表されていない制度に関しては、現在分かっている範囲でお伝えします。
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この記事の目次
2024年問題対策 支援一覧
2024年問題対策として東京都に設置された制度では、それぞれ対象となる事業や支援内容が異なります。まずは企業が抱える課題別に、活用できる支援制度を確認しましょう。
①デジタル技術の活用によって、生産性向上を目指したい |
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■どのようにデジタル化を進めたらよいか分からない場合 ⇒【2024年問題】デジタル技術活用推進緊急支援事業 ■デジタル化などを目的とした資金調達がしたい場合 ・事務を効率化するソフトウェアの購入には ⇒デジタルツール導入促進緊急支援事業 ・専門家の助言を受け、デジタル機器等を導入したいなら ⇒緊急デジタル技術活用推進助成金 ・競争力強化のため、最新の大型設備等を導入したいなら ⇒設備投資緊急支援事業 |
②人手不足を解消したい |
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業界別人材確保強化緊急支援事業 |
➂なにから手を付ければよいのか分からない |
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働き方改革パワーアップ応援緊急対策事業 |
そのほか、全事業を対象としたリスキリングやデジタルツール導入への支援策も設置されています。事業改革や資金調達に困ったら、まずは自治体や補助金に詳しい機関に相談してみましょう。
ここでは特に、建設業・運搬業を対象にした、東京都の各支援制度の詳細を見ていきます。
2024年問題 建設業・運輸業界の生産性向上支援
2024年問題に伴う人手不足を補い、効率的な業務を目指して生産性を上げるには、デジタル機器の導入も有効です。ここではデジタル機器をはじめとした設備導入に活用できる、4つの支援制度をまとめました。
<デジタル推進巡回員・アドバイザー派遣>デジタル技術活用推進緊急支援事業
デジタル技術活用推進緊急支援事業のうち、専門家のアドバイスを受けながら設備導入を行う制度です。
建設業・運搬業等の中小企業にデジタル推進巡回員やアドバイザーが派遣され、デジタル機器・設備の導入・活用がサポートされます。
【支援内容】
ICT・IoT・AI、ロボットなどデジタル技術を活用して自社の生産性向上に取り組むにあたり、具体的な取り組みについて、専門家のアドバイスを受けることができます。相談受付は3月6日からスタートしています。
支援を受けるにあたっては、現地調査・診断を受けていることが必須要件です。現地調査・診断は、実際にアドバイザーが訪問して実施するものです。必要に応じて導入計画等の策定、導入後のフォローなども支援されます。支援はすべて無料です。
なおアドバイザーからデジタル技術の導入が提案された場合には、デジタル技術活用推進緊急支援事業の<助成金支援>を受けることもできます。
現地調査・診断以降のフローは、以下の図も参照してください。
出典:東京都中小企業振興公社
【対象事業者】
対象事業者は、「都内に事業所を置く建設業・運輸業等の中小企業者等」です。
【助成対象事業】
対象となる取組の例は、以下のとおりです。
- 現状を遠隔で把握するシステムの導入
- 配送ルートの最適化
- 勤怠管理や事務作業の効率化
<助成金支援>設備投資緊急支援事業
生産性の向上や競争力強化のために必要となる、機械設備の導入費用の一部が助成される制度です。
【対象事業者】
対象となる事業者の主な要件は、以下の2つです。
①東京都内に本店や支店がある
②都内で2年以上事業を継続している中小企業者等
なお、都外設置の場合は、東京都内に本店があることが必要です。
【助成対象期間】
交付決定日の翌月1日から1年6か月間
※第1回募集の助成対象期間は2024年10月1日から、最長で2026年3月31日です。
【助成率・助成限度額】
項目 | 内容 |
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助成率 | 4/5 |
助成限度額 | 1億円 |
助成下限額 | 100万円 |
【助成対象事業】
運送・物流、建設業等の業種で、働き方改革関連法の時間外労働の上限規制による人材不足等の対策に必要となる設備投資を、新たに導入する事業が対象です。
【助成対象経費】
機械設備、器具備品、ソフトウェアの導入経費
※1基50万円以上の機械装置、もしくは器具備品が対象です。
詳細は、後日公開される募集要項を確認してください。
【申請方法】
助成金を申請するためには、事前の予約が必要です。事前予約・申請は、いずれも電子システム「Jグランツ」にて手続きを行います。
各申請から事業開始までのスケジュールは、以下のとおりです。
申請予約 | 2024年3月21日~5月21日 17時まで |
申請受付 | 2024年5月8日~5月24日 17時まで |
書類選考・面接審査 | 5月中旬~8月下旬 |
助成対象者決定 | 9月中旬 |
助成事業開始 | 10月1日~ |
<助成金支援>デジタル技術活用推進緊急支援事業
<デジタル推進巡回員・アドバイザー派遣>にてアドバイザー派遣を受けた事業者を対象に、デジタル技術の導入・活用に必要な経費の一部を助成する制度です。
【対象事業者】
都内で運輸業や建設業等を営む中小企業者等のうち、「アドバイザーからの提案書」の発行を受けた事業者が対象です。なお、アドバイザーからの提案書の作成には、最低3か月程度かかります。申請の際には、余裕のあるスケジュールを立てましょう。
詳しくは、後日公表される募集要項でご確認ください。
【助成対象期間】
1年間
【助成率・助成限度額】
項目 | 内容 |
---|---|
助成率 | 4/5 |
助成限度額 | 3000万円 |
<助成金支援>デジタルツール導入促進緊急支援事業
2024年問題に直⾯する、都内の運輸業・建設業の中⼩企業等を対象にした支援です。新たにデジタルツール(ソフトウェア・クラウドサービス)を導入する際に要する、経費の一部が助成されます。
デジタルツールの導入による事業活動のデジタル化を促進し、継続的な成⻑・発展を⽀援することを⽬的としています。
【対象事業者】
対象事業者の主な要件は、以下のとおりです。
主な要件 |
①建設業・運輸業に該当する都内中小企業等であること(会社・個人事業主・中小企業団体) |
②東京都内に本店または⽀店があること |
➂東京都内で実質的に事業を⾏っていること |
④取組の実施場所は、申請者の本社・事業所・⼯場等であり、指定の条件を満たすこと |
⑤事業税等を滞納したり、不正等や事故を起こしたりしていないこと |
⑥助成事業終了後も、引き続き⾃社の継続的な成⻑・発展を計画していること |
⑦風俗営業者や暴力団関係者等でないこと |
【助成対象期間】
助成期間は1年間です。また各事業期間の詳細は、以下のとおりです。
第1回:2024年6⽉1⽇〜2025年5⽉31⽇
第2回:2024年7⽉1⽇〜2025年6⽉30⽇
【助成率・助成限度額】
項目 | 内容 |
---|---|
助成率 | 3/4 |
助成限度額 | 100万円 |
助成下限額 | 5万円 |
【助成対象事業】
助成対象事業は、以下のいずれかに該当するものです。
- ⾃社の事業活動のデジタル化のために、デジタルツールを新たに導⼊し、運⽤を開始すること
- 将来にわたり継続的にデジタルツールを活⽤し、⾃社業務の成⻑・発展を図る取組であること
具体的な取り組みの例は、以下のとおりです。
複数の業務改善ソフトウェまたはクラウドサービスを組み合わせて導入し、バックオフィス業務の工数を削減する |
タクシー等の配車の実績を位置情報で把握し報告書の作成を自動化することで工数を削減する |
クラウド上で設計図面を管理し、工事現場において共有し効率化を促進する |
マーケティングオートメーションツールを新たに導⼊し、営業・マーケティング活動の⾃動化を促進する など |
【助成対象経費】
・デジタルツール購入費(ツール本体)
・導入するデジタルツールの初期設定、カスタマイズ、運用・保守サポートに要する費用(関連経費)
なお、関連経費の上限額は50万円です。また、以下のものは対象外となります。
- ハード機器(PC、タブレット端末等)
- 汎用性の高いソフトウェア(OS、セキュリティソフト、表計算・文書作成ソフト等)
- ⼀般市場で販売されていることが確認できないもの(特定の顧客向けに限定されるもの)
- 消費税、収⼊印紙代、振込⼿数料等
- 中古品やリース・レンタル契約に係る経費
- ⾃社製品の購⼊に係る経費 など
ただし、設備等の稼働・故障状況を可視化するソフトウェアの導入時に限って、当該設備や機器と接続する専用のハードウェアも対象です。この場合の助成上限額は、20万円となります。
【申請方法】
申請は、jGrantsまたは専用フォームを用いた電子申請のみでの受け付けです。jGrantsの利用には、gBizIDプライムが必要です。gBizIDプライム取得には原則2週間程度かかります。余裕をもって、申請準備を行ってください。
また、申請のスケジュールは、以下のとおりです。
出典:事業案内チラシ
2024年問題 建設業・運輸業界の人材確保支援
2024年問題は、労働基準法の改正によって顕在化した課題です。その根本的な原因のひとつは、担い手となる労働者不足にあります。
長時間労働に陥りがちな建設業・運搬業での労働時間を是正し、労働者ための環境を整備すること自体は、長期的な業界の発展のためにも必要なことです。労働環境を見直し、若い人材を呼び込むことが、2024問題を含めた業界の課題を解決する一助となります。
次は、人材確保のために活用できる2つの制度を見ていきましょう。
人材確保・就職促進緊急対策事業
人材確保・就職促進緊急対策事業では、合同面接会を開催し、企業と求職者のマッチングを測ることで、人材確保を支援する制度です。
建設業、運輸業の企業の人材確保に向けた採用活動を後押しする、緊急対策のひとつです。
【事業内容】
事業の内容は、以下の2つです。
①事前セミナー(オンライン)
「人材確保に関するセミナー(企業向け)」と「業界研究セミナー(求職者向け)」の2回が予定されています。
②合同就職面接会
建設業、運輸業の企業延べ50社が参加します。企業向け・求職者向け相談コーナーも設置される予定です。
【実施スケジュール】
現在予定されている実施スケジュールは、以下のとおりです。
2024年4月 | 企業の参加募集開始 |
2024年5月 | 求職者の参加受付開始 |
2024年6月 | 事前セミナー開始 |
2024年7月 | 合同就職面接会(2日間)会場 東京ドームシティ プリズムホール |
詳細は、「東京しごとセンターホームページ」で順次公開されます。
業界別人材確保強化緊急支援事業
業界団体を通じて、中小企業の人材確保を支援する制度です。2024年問題への対応に取り組む中小企業を対象に、人材確保の取組に要する経費を補助します。
【対象団体】
運輸業・建設業等の中小企業を構成員し、「2024年問題」対策に取り組む業界団体
なお、支援団体数は5団体程度が予定されています。
【助成対象期間】
1団体あたり2年間
【助成率・助成限度額】
項目 | 内容 |
---|---|
助成率 | 1/2 |
助成限度額 | 1団体あたり5000万円 |
助成対象経費
主に「2024年問題」の対策のため、業界団体が構成員の中小企業等を対象に行う人材確保の取組に要する経費
【問い合わせ先】
業界別人材確保強化緊急支援事業の問い合わせ先は、以下のとおりです。
産業労働局雇用就業部就業推進課 | 電話:03-5320-4628 |
東京しごと財団企業支援部雇用環境整備課 | 電話:03-5211-2395 |
2024年問題 建設業・運輸業界の働き方改革
建設業・運搬業界における働き方改革を促進するための制度も設置されています。次は、「働き方改革パワーアップ応援緊急対策事業」の内容を見てみましょう。
働き方改革パワーアップ応援緊急対策事業
主体的に働き方改革に取り組めるよう、巡回相談や相談窓口の設置や専門家派遣などを行う制度です。
具体的には、以下の4つが予定されています。
①「2024年問題」に対応した巡回相談
②相談窓口
➂セミナー
④従業員サーベイ・専門家派遣
詳細は後日、公式サイト等で公表されます。ここでは現在わかっている範囲で、それぞれの内容をまとめました。
①「2024年問題」に対応した巡回相談 |
「2024年問題」に直面する建設・運送業を対象に、専門家の相談員が企業を訪問し、働き方改革に向けたアドバイスを行います。また、必要な支援策も紹介します。訪問は2024年4月以降、開始される予定です。 |
②相談窓口 |
働き方改革に関する企業の様々な相談を受けられる事業です。相談は社会保険労務士などの専門家が担当し、料金は無料です。 |
③セミナー |
働き方改革に関する法令や他社の取組事例、最新の動向をおさえるセミナーが実施されます。こちらも、費用は無料です。 |
④従業員サーベイ・専門家派遣 |
働き方改革の課題把握のための従業員サーベイを、無料で実施できます。サーベイ実施後は専門家が派遣され、サーベイの実施結果を分析するとともに、企業の課題と今後の取り組みの方向性についての助言も受けられます。 |
【問い合わせ先】
働き方改革パワーアップ応援緊急対策事業に関する問い合わせ先は、以下のとおりです。
東京都労働相談情報センター 事業普及課:03-5211-2248
2024年問題に向けた企業の対策
働き方改革関連法のひとつとして2019年に施行された労働基準法の改定では、時間外労働は原則として月45時間、年360時間が上限と定められました。
この規定には業界や企業規模にあわせて猶予期間が設けられました。中小企業では2020年から、以下の事業では2024年から施行されます。
- 工作物の建設の事業
- 自動車運転の業務
- 医業に従事する医師
- 鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業
建設業・運搬業における2024年問題とは、こうした法改正を背景に顕在化した課題です。
本来、労働時間の規制は労働者を守る目的で設定されたものです。特に運搬業では、近年、ドライバーの労働環境の悪化が問題視されてきました。コロナ禍をはじめとして社会のニーズが変化するとともに運搬サービスの需要が伸びた一方、再配達やドライバーの負担増加が問題視されるようになったのです。課題は労働時間の上限ではなく、無理のない労働環境の構築にあります。
5年間の執行猶予は、建設業や運搬業などの長時間労働には業務の特性や取引慣行の課題があることから設定された期間です。この期間の間に解決できなかった問題のしわ寄せが、いま、深刻な社会問題として注目されるようになってきました。根本的な課題解決には、労働環境の整備と業務効率の向上が必要です。
こうした問題は、建設業・運搬業に限ったことではありません。国も現場のDX化や、若者の就労支援に力を入れています。各企業でも、賃上げをはじめとした「人への投資」が重視されるようになってきました。
労働人口が減少の一途をたどる今、限られた労働力を有効に活用しつつ、労働者にとっても快適な環境を作るため、すべての事業者が変革の時期を迎えているのです。
まとめ
建設業・運搬業における労働力不足は、業界の垣根を越えた大きな課題です。最近では他業種による運搬事業の展開や、建設現場における規制緩和など、さまざまな動きがみられるようになってきました。今回紹介した支援策もそのひとつです。ほかにも、国や各自治体からはさまざまな助成制度が設定されています。
人材の確保や職場環境の改善には、予算的な余裕が必要です。支援制度をうまく活用しながら、少ない負担で有意義な変革を目指しましょう。